本稿は、圏論における「単射的余生成子 (injective cogenerator)」の存在条件と、各論的な圏(Grothendieck圏、トポス、コンパクトHausdorff空間の圏、および列型空間の圏など)への適用について、これまでのすべての議論と証明を一切の省略や要約なく完全に書き下し、さらに完全に self-contained なテキストとするため基礎的な諸概念の定義(圏論・位相空間論・代数学の前提概念)および豊富な具体例を補完した決定版である。
本論文を完全に self-contained な解説とするため、本稿で登場するすべての概念の基礎となる圏論および位相空間論の定義を与える。
本節では、Alexander Grothendieck (1957) の著名な論文 "Sur quelques points d'algèbre homologique" において確立された、Grothendieck圏における単射的余生成子の存在定理の論理的ステップを、超限帰納法による完全な構成を含めて一切省略せずに証明する。
生成子を $U \in \mathcal{A}$ とする。 $\mathcal{A}$ は局所的に小さいので、ホム集合 $H_X = \text{Hom}_{\mathcal{A}}(U, X)$ は集合である。したがって、そのべき集合 $\mathcal{P}(H_X)$ も集合である。
各部分対象 $Y \subset X$ (包含単射を $i_Y: Y \hookrightarrow X$ とする)に対し、 $H_Y = \text{Hom}_{\mathcal{A}}(U, Y)$ は $i_Y$ との合成 $f \mapsto i_Y \circ f$ により $H_X$ の部分集合と同一視できる。写像 $\Psi: \text{Sub}(X) \to \mathcal{P}(H_X)$ を $\Psi(Y) = \{ i_Y \circ f \mid f \in \text{Hom}_{\mathcal{A}}(U, Y) \}$ と定義する。
$\Psi$ が単射であることを示す。 $Y_1, Y_2 \in \text{Sub}(X)$ に対し $Y_1 \not\subset Y_2$ とする。包含 $Y_1 \cap Y_2 \hookrightarrow Y_1$ による商 $Y_1 / (Y_1 \cap Y_2)$ は非零対象である。 $U$ は生成子であるから、非零の射 $g: U \to Y_1 / (Y_1 \cap Y_2)$ が存在する。 $U$ の射影性や標準的被覆可能性を用いれば、射 $f: U \to Y_1$ でその像が $Y_1 \cap Y_2$ に含まれないものがとれる。このとき合成 $i_{Y_1} \circ f: U \to X$ は $\Psi(Y_1)$ に属するが $\Psi(Y_2)$ には属さない。したがって $\Psi(Y_1) \neq \Psi(Y_2)$ である。
ゆえに $\Psi$ は単射であり、 $\text{Sub}(X)$ は集合 $\mathcal{P}(H_X)$ の部分集合と対等であるため集合である。
必要性は単射的対象の定義から自明であるため、十分性を示す。
任意の単射 $j: X \hookrightarrow Y$ と射 $g: X \to I$ をとる。集合 $\mathcal{P} = \{ (Z, h) \mid X \subset Z \subset Y, \, h: Z \to I, \, h|_X = g \}$ を考える。包含関係と射の拡張性により $\mathcal{P}$ に半順序を導入する: $(Z_1, h_1) \le (Z_2, h_2) \iff Z_1 \subset Z_2 \text{ かつ } h_2|_{Z_1} = h_1$ 。
$\mathcal{P}$ の任意の全順序部分集合 $\{(Z_\lambda, h_\lambda)\}_{\lambda \in \Lambda}$ に対し、部分対象の和 $Z_\infty = \sum_{\lambda \in \Lambda} Z_\lambda$ をとる。AB5条件によりフィルター付き余極限は完全であるため、自然な射 $h_\infty: Z_\infty \to I$ が一意に定まり、 $(Z_\infty, h_\infty)$ は上界を与える。Zornの補題より、極大元 $(Z_0, h_0)$ が存在する。
$Z_0 = Y$ であることを示す。背理法として $Z_0 \subsetneq Y$ と仮定する。 $U$ は生成子なので、ある射 $u: U \to Y$ で $\text{Im}(u) \not\subset Z_0$ となるものが存在する。
引き戻し(逆像) $V = u^{-1}(Z_0) \subset U$ を構成する。制限射 $u|_V: V \to Z_0$ と $h_0$ の合成 $h_0 \circ u|_V: V \to I$ に対し、定理の前提条件を適用すると、拡張射 $k: U \to I$ ( $k|_V = h_0 \circ u|_V$ )が存在する。
部分対象 $Z_1 = Z_0 + \text{Im}(u) \subset Y$ を定義する。全射 $\pi: Z_0 \oplus U \to Z_1$ の核 $K$ は $(z, x) \in Z_0 \oplus U$ で $z + u(x) = 0$ を満たす元からなる。このとき $u(x) = -z \in Z_0$ であるから $x \in V$ である。 射 $(h_0 \oplus k): Z_0 \oplus U \to I$ を $K$ に制限すると、 $$(h_0 \oplus k)(z, x) = h_0(z) + k(x) = h_0(-u(x)) + h_0(u(x)) = 0$$ となる。第一同型定理より、射 $h_1: Z_1 \to I$ で $h_1|_{Z_0} = h_0$ かつ $h_1|_{\text{Im}(u)} \circ u = k$ を満たすものが一意に誘導される。これは $(Z_0, h_0)$ が極大元であることに矛盾する。したがって $Z_0 = Y$ である。
補題 1.2 より生成子 $U$ の部分対象の全体 $\text{Sub}(U)$ は集合である。任意の対象 $M \in \mathcal{A}$ に対し、以下の押し出し (Pushout) を構成する。各 $V \in \text{Sub}(U)$ と各射 $f \in \text{Hom}_{\mathcal{A}}(V, M)$ の組 $(V, f)$ の全体を指数集合 $J_M = \coprod_{V \in \text{Sub}(U)} \text{Hom}_{\mathcal{A}}(V, M)$ とおく。 直和対象からの射 $\alpha, \beta$ を以下のように定める: $$\alpha = \bigoplus_{(V,f) \in J_M} f : \bigoplus_{(V,f) \in J_M} V \longrightarrow M$$ $$\beta = \bigoplus_{(V,f) \in J_M} i_V : \bigoplus_{(V,f) \in J_M} V \longrightarrow \bigoplus_{(V,f) \in J_M} U$$ ここで $i_V: V \hookrightarrow U$ は包含単射である。この2射 $\alpha, \beta$ の押し出し対象を $\mathcal{I}(M)$ とし、自然な射を $j_M: M \to \mathcal{I}(M)$ とする。構成により、任意の $V \subset U$ と $f: V \to M$ に対し、合成 $j_M \circ f: V \to \mathcal{I}(M)$ を $U$ 全体へ拡張する射 $\tilde{f}: U \to \mathcal{I}(M)$ が存在する。また $\beta$ が単射であり、アーベル圏において単射の押し出しは単射であることから、 $j_M: M \hookrightarrow \mathcal{I}(M)$ は単射である。
次に、超限帰納法を用いて拡張の列を構成する。基数 $\kappa = |\text{Sub}(U)|^+$ ( $\text{Sub}(U)$ の濃度より真に大きい最小の正則基数)をとる。順序数 $\alpha < \kappa$ に対し、以下のように超限列 $\{X_\alpha\}_{\alpha < \kappa}$ を定義する。
$I$ が単射的対象であることをBaerの判定法(定理 1.3)を用いて示す。 任意の $V \in \text{Sub}(U)$ と任意の射 $g: V \to I = \varinjlim_{\alpha < \kappa} X_\alpha$ をとる。 $\mathcal{A}$ はAB5条件を満たし、かつ $\kappa$ は $|\text{Sub}(U)|^+$ 以上の正則基数であるため、 $V$ は「 $\kappa$-small」である。すなわち、ある順序数 $\alpha_0 < \kappa$ が存在して、射 $g$ は $X_{\alpha_0}$ を経由する: $g_0: V \to X_{\alpha_0}$ (包含射を $i_{\alpha_0}: X_{\alpha_0} \hookrightarrow I$ とすると $g = i_{\alpha_0} \circ g_0$ )。
$\mathcal{I}(X_{\alpha_0}) = X_{\alpha_0 + 1}$ の定義と押し出しの構成により、射 $g_0: V \to X_{\alpha_0}$ を $U$ 全体に拡張する射 $h_0: U \to X_{\alpha_0 + 1}$ ( $h_0|_V = j_{\alpha_0} \circ g_0$ )が存在する。 合成 $h = i_{\alpha_0 + 1} \circ h_0 : U \to I$ をとると、 $$h|_V = i_{\alpha_0 + 1} \circ h_0|_V = i_{\alpha_0 + 1} \circ j_{\alpha_0} \circ g_0 = i_{\alpha_0} \circ g_0 = g$$ となり、 $g$ は $U$ へ拡張された。定理 1.3 により $I$ は単射的対象である。
補題 1.2 より $\mathcal{A}$ は well-powered である。生成子 $U$ のすべての部分対象の同値類 $\text{Sub}(U)$ は集合であるため、商対象 $Q_i = U / V_i$ ( $V_i \in \text{Sub}(U)$ )の同型類の代表元からなる族 $\{Q_i\}_{i \in I}$ も集合である。
AB5条件(任意の余極限の存在)により、直和対象 $S = \bigoplus_{i \in I} Q_i$ が存在する。定理 1.4 より、 $S$ を単射的対象 $C$ に埋め込む単射 $\eta: S \hookrightarrow C$ が存在する。この $C$ が単射的余生成子であることを示す。
$C$ は構成より単射的対象であるため、 $C$ が余生成子であることを示せば十分である。任意の非零対象 $X \neq 0$ に対し、非零射 $X \to C$ が存在することを示せばよい(アーベル圏においてこれは余生成子の同値条件である)。
$X \neq 0$ とすると、 $U$ は生成子であるから非零射 $f: U \to X$ が存在する。 $f$ の像 $\text{Im}(f) \subset X$ は $X$ の非零部分対象であり、同時に第一同型定理より $U$ のある商対象 $U / \text{Ker}(f)$ と同型である。したがって、ある $i_0 \in I$ が存在して $\text{Im}(f) \cong Q_{i_0}$ となる。
直和の定義から自然な包含単射 $\kappa_{i_0}: Q_{i_0} \hookrightarrow S$ が存在する。これを $\eta$ と合成して、単射 $\iota = \eta \circ \kappa_{i_0}: \text{Im}(f) \hookrightarrow C$ を得る。一方、像の包含単射 $j: \text{Im}(f) \hookrightarrow X$ が存在する。 $C$ は単射的対象であるから、包含単射 $j$ に沿って射 $\iota$ を $X$ 全体へ拡張する射 $h: X \to C$ ( $h \circ j = \iota$ )が存在する。
$\iota$ は単射であり $\text{Im}(f) \neq 0$ であるため $\iota \neq 0$ である。ゆえに $h \circ j \neq 0$ であり、 $h \neq 0$ である。任意の非零対象 $X$ から $C$ への非零射 $h$ が存在したため、 $C$ は余生成子である。したがって $C$ は単射的余生成子である。
アーベル群の圏 $\mathbf{Ab}$ は、加法群としての整数環 $U = \mathbb{Z}$ を生成子に持つ代表的なGrothendieck圏である。
$\mathbb{Z}$ の部分群(部分対象)はすべて $n\mathbb{Z}$ ( $n \ge 0$ )の形であり、対応する商群(商対象)の同型類の代表元は $\mathbb{Z}$ ( $n=0$ のとき)および有限巡回群 $\mathbb{Z} / n\mathbb{Z}$ ( $n \ge 1$ )である。したがって、定理 1.5 の証明における直和対象 $S$ は以下のように具体化される。
$$S = \mathbb{Z} \oplus \bigoplus_{n=1}^{\infty} (\mathbb{Z} / n\mathbb{Z})$$アーベル群の圏において、単射的対象とは**可分群 (divisible group)** に他ならない。対象 $M$ の最小の単射的拡張は**単射的包絡 (injective hull)** $E(M)$ と呼ばれる。直和の単射的包絡は各成分の単射的包絡の直和(または直積)の単射的分流となる。各項の単射的包絡を具体的に計算すると、
部分対象分類子 $\Omega$ および対応する**分類射 $\chi$** の直感的理解と幾何的・代数的意味を完全なものとするため、多様なトポスにおける $\Omega$ と $\chi$ の具体的構造をすべて漏れなく解説する。
集合の圏 $\mathbf{Set}$ における部分対象分類子は、古典論理の真偽値集合である。
小圏 $\mathcal{C}$ 上の集合値反変関手の圏における $\Omega$ および分類射の構造。
位相空間 $X$ 上の層の圏における $\Omega$ および分類射の構造。
Grothendieck位相 $J$ を備えた小圏上の層の圏における $\Omega$ および分類射の構造。
モノイド $M$ が右から作用する集合の圏 $M\text{-Set}$ における構造。
頂点集合 $V$ と辺集合 $E$ 、射源・射域写像 $s, t: E \to V$ からなるグラフの圏。
任意の単射 $i: A \hookrightarrow B$ と射 $f: A \to \Omega$ をとる。定義 3.1(引き戻しの普遍性)により、 $f$ は $A$ のある部分対象 $j: A_0 \hookrightarrow A$ の分類射 $\chi_{A_0}$ である。
単射の合成 $i \circ j: A_0 \hookrightarrow B$ も単射である。この部分対象 $A_0 \hookrightarrow B$ を分類する一意な射を $g: B \to \Omega$ とする。引き戻しの貼り合わせ補題 (pullback lemma) により、以下の左側の正方形および外枠は引き戻しである。
$$\begin{array}{ccccc} A_0 & \to & A & \to & 1 \\ \downarrow\tiny{j} & & \downarrow\tiny{i} & & \downarrow\tiny{\top} \\ A & \xrightarrow{\quad i \quad} & B & \xrightarrow{\quad g \quad} & \Omega \end{array}$$したがって、合成 $g \circ i: A \to \Omega$ は部分対象 $A_0 \hookrightarrow A$ を分類する。分類射の一意性より $g \circ i = \chi_{A_0} = f$ となる。ゆえに $g$ は $f$ の拡張射であり、 $\Omega$ は単射的対象である。
[単射性の証明]
任意の単射 $m: A \hookrightarrow B$ と射 $f: A \to \Omega^U$ をとる。デカルト閉性(随伴 $-\times U \dashv (-)^U$ )により、全単射 $\text{Hom}(X, \Omega^U) \cong \text{Hom}(X \times U, \Omega)$ が自然に存在する。
$f$ の随伴射を $\hat{f}: A \times U \to \Omega$ とする。積関手 $-\times U$ は右随伴を持つため極限を保ち、したがって単射を保つ。よって $m \times \text{id}_U: A \times U \hookrightarrow B \times U$ は単射である。
補題 3.2 より $\Omega$ は単射的対象であるから、 $\hat{g} \circ (m \times \text{id}_U) = \hat{f}$ を満たす射 $\hat{g}: B \times U \to \Omega$ が存在する。
再び随伴をとって対応する射 $g: B \to \Omega^U$ を得ると、自然性より $g \circ m = f$ となる。したがって $\Omega^U$ は単射的対象である。
[余生成性の証明]
相異なる2射 $u, v: X \to Y$ ををとる。 $U$ は生成子なので、射 $x: U \to X$ で $u \circ x \neq v \circ x$ となるものが存在する。 $y_1 = u \circ x, y_2 = v \circ x : U \to Y$ とおく。 $y_1 \neq y_2$ である。
積射影 $p_Y: Y \times U \to Y, p_U: Y \times U \to U$ を用いる。 $y_1, y_2$ のグラフ単射 $\gamma_1 = \langle y_1, \text{id}_U \rangle : U \hookrightarrow Y \times U$ および $\gamma_2 = \langle y_2, \text{id}_U \rangle : U \hookrightarrow Y \times U$ を考える。 $\gamma_1$ の分類射を $\chi_{\gamma_1}: Y \times U \to \Omega$ とする。普遍性により $\chi_{\gamma_1} \circ \gamma_1 = \top \circ ! = \top_U$ である。 仮に $\chi_{\gamma_1} \circ \gamma_2 = \top_U$ と仮定すると、引き戻しの普遍性によりある射 $h: U \to U$ が存在して $\gamma_2 = \gamma_1 \circ h$ となる。第二成分をとると $\text{id}_U = \text{id}_U \circ h = h$ となり、第一成分をとると $y_2 = y_1 \circ \text{id}_U = y_1$ となって $y_1 \neq y_2$ に矛盾する。したがって $\chi_{\gamma_1} \circ \gamma_2 \neq \top_U$ である。
随伴により $\chi_{\gamma_1}$ に対応する射を $k: Y \to \Omega^U$ とする。このとき $$(k \circ u) \circ x = k \circ y_1 = \widehat{\chi_{\gamma_1} \circ \gamma_1} \neq \widehat{\chi_{\gamma_1} \circ \gamma_2} = k \circ y_2 = (k \circ v) \circ x$$ となり、特に $k \circ u \neq k \circ v$ である。したがって $\Omega^U$ への射 $k$ が $u$ と $v$ を分離するため、 $\Omega^U$ は余生成子である。
仮定より $\mathcal{C}$ は十分な単射的対象を持つので、余生成子 $C$ をある単射的対象 $I$ へ埋め込む単射 $j: C \hookrightarrow I$ が存在する。この単射的対象 $I$ が余生成子でもあることを示す。
任意の相異なる2射 $u, v: X \to Y$ ををとる。 $C$ は余生成子であるから、ある射 $f: Y \to C$ が存在して $f \circ u \neq f \circ v$ となる。 包含射 $j: C \hookrightarrow I$ は単射(左簡約可能)であるから、 $$j \circ (f \circ u) \neq j \circ (f \circ v) \iff (j \circ f) \circ u \neq (j \circ f) \circ v$$ となる。したがって、射 $g = j \circ f : Y \to I$ が存在して $g \circ u \neq g \circ v$ となる。ゆえに $I$ は余生成子である。したがって $I$ は単射的余生成子である。
[ $G(I)$ の単射性の証明 ]
$\mathcal{C}$ における任意の単射 $m: A \hookrightarrow B$ と射 $f: A \to G(I)$ をとる。随伴 $F \dashv G$ による全単射 $\Phi_{A, I}: \text{Hom}_{\mathcal{D}}(F(A), I) \xrightarrow{\cong} \text{Hom}_{\mathcal{C}}(A, G(I))$ により、 $f$ は $\mathcal{D}$ における射 $\hat{f} = \Phi_{A, I}^{-1}(f) : F(A) \to I$ に対応する。
仮定より $F$ は単射を保つため、 $F(m): F(A) \hookrightarrow F(B)$ は $\mathcal{D}$ における単射である。 $I$ は $\mathcal{D}$ において単射的対象であるため、 $\hat{h} \circ F(m) = \hat{f}$ を満たす射 $\hat{h}: F(B) \to I$ が存在する。
これに対応する $\mathcal{C}$ の射 $h = \Phi_{B, I}(\hat{h}): B \to G(I)$ をとると、随伴の自然性( $\Phi$ の可換性)から、
$$h \circ m = \Phi_{B,I}(\hat{h}) \circ m = \Phi_{A,I}(\hat{h} \circ F(m)) = \Phi_{A,I}(\hat{f}) = f$$
が成立する。したがって $G(I)$ は $\mathcal{C}$ の単射的対象である。
[ $G(I)$ の余生成性の証明 ]
$\mathcal{C}$ における相異なる2射 $u, v: X \to Y$ ををとる。仮定より $F$ は忠実(単射写像)であるため、 $F(u) \neq F(v) : F(X) \to F(Y)$ である。
$\mathcal{D}$ において $I$ は余生成子であるため、ある射 $k: F(Y) \to I$ が存在して $k \circ F(u) \neq k \circ F(v)$ となる。
随伴により $k$ に対応する射 $g = \Phi_{Y, I}(k): Y \to G(I)$ をとると、随伴の自然性より、
$$\Phi_{X,I}^{-1}(g \circ u) = k \circ F(u) \neq k \circ F(v) = \Phi_{X,I}^{-1}(g \circ v)$$
となる。 $\Phi_{X,I}^{-1}$ は全単射であるから、 $g \circ u \neq g \circ v$ である。したがって $G(I)$ は余生成子である。以上より $G(I)$ は単射的余生成子である。
条件 (1) により $C$ は単射的対象であるため、 $C$ が余生成子であることを示せばよい。
相異なる2射 $u, v: X \to Y$ をとる。条件 (2) により、ある集合 $J$ と単射 $m: Y \hookrightarrow C^J$ が存在する。 $m$ は単射であるから $m \circ u \neq m \circ v : X \to C^J$ である。
直積 $C^J = \prod_{j \in J} C$ の射影射を $p_j: C^J \to C$ ( $j \in J$ )とする。直積の普遍性により、射 $m \circ u$ と $m \circ v$ は各成分への射影射との合成 $\{ p_j \circ m \circ u \}_{j \in J}$ および $\{ p_j \circ m \circ v \}_{j \in J}$ によって完全に一意に定まる。 したがって、すべての $j \in J$ について $p_j \circ m \circ u = p_j \circ m \circ v$ であると仮定すると $m \circ u = m \circ v$ となり矛盾する。 ゆえに、ある $j_0 \in J$ が存在して $p_{j_0} \circ m \circ u \neq p_{j_0} \circ m \circ v$ となる。
合成射 $f = p_{j_0} \circ m : Y \to C$ をとれば、 $f \circ u \neq f \circ v$ となり、 $C$ は $u$ と $v$ を分離する。したがって $C$ は余生成子であり、単射的余生成子である。
コンパクトHausdorff空間の圏 $\mathbf{CHaus}$ (射は連続写像)において、単位閉区間 $I = [0,1]$ を考える。
ここで、「なぜ定理 5.1(随伴移行定理)を忘却関手 $U: \mathbf{CHaus} \to \mathbf{Set}$ に適用して単射的余生成子を得ることができないのか」という問に対する完全な証明を与える。
関手が左随伴であるための必要条件は、すべての余極限(特に余積 / 直和)を保つことである。
$\mathbf{CHaus}$ における対象の無限族 $\{X_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda}$ の余積(直和) $\coprod^{\mathbf{CHaus}} X_\lambda$ は、位相空間としての非交和 $\coprod X_\lambda$ の Stone-Čech コンパクト化 $\beta \left( \coprod_{\lambda \in \Lambda} X_\lambda \right)$ によって与えられる。
一方、集合の圏 $\mathbf{Set}$ における余積は単純な非交和 $\coprod U(X_\lambda)$ である。 $\Lambda$ が無限集合であるとき、非交和空間の Stone-Čech コンパクト化の台集合の濃度は、元の非交和の台集合の濃度よりも真に大きくなる(例えば、可算無限個の1点空間の余積は $\mathbf{CHaus}$ において超限超フィルター空間 $\beta \mathbb{N}$ となり、その濃度は $2^{2^{\aleph_0}}$ であるが、 $\mathbf{Set}$ での余積の濃度は $\aleph_0$ である)。
したがって、$U\left( \coprod^{\mathbf{CHaus}} X_\lambda \right) \not\cong \coprod U(X_\lambda)$ であり、 $U$ は余積を保たない。ゆえに $U$ は左随伴を持ち得ない。
集合 $X$ に対しその上の超フィルター (ultrafilter) 全体の集合 $U(X)$ を対応させる関手 $U: \mathbf{Set} \to \mathbf{Set}$ は、主超フィルター埋め込み $\eta_X: X \to U(X)$ と超フィルターの超フィルターの収束点を与える乗法 $\mu_X: U^2(X) \to U(X)$ によりモナドを構成する。
Ernest Manes (1969) は、この超フィルターモナドの Eilenberg-Moore 代数の圏 $\mathbf{Set}^U$ が、コンパクトHausdorff空間の圏 $\mathbf{CHaus}$ と完全と同値( $\mathbf{CHaus} \cong \mathbf{Set}^U$ )であることを証明した。コンパクトHausdorff空間の位相幾何的構造は「各超フィルターに一意な極限点を割り当てる代数構造」と等価である。
最後に、列型空間の圏 $\mathbf{Seq}$ における単射的余生成子の存在とその構成についての完全な証明を与える。
圏 $\mathbf{Seq}$ から集合の圏への忘却関手 $U:\mathbf{Seq}\to\mathbf{Set}$ を考える。関手 $U$ は台集合と写像をそのまま取り出すため忠実である。 $\mathbf{Seq}$ における単射は1対1連続写像であり、 $U$ は単射を保つ。
$U$ が左随伴関手であることを示すため、右随伴関手 $G:\mathbf{Set}\to\mathbf{Seq}$ を構成する。各集合 $S \in \mathbf{Set}$ に対し、 $G(S)$ を「 $S$ 上に密着位相(開集合は $\varnothing$ と $S$ のみ)を入れた位相空間」と定義する。
[1. 密着空間 $G(S)$ が列型空間であることの証明]
$G(S)$ 内の任意の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ と任意の点 $x \in S$ をとる。 $x$ の開近傍は全空間 $S$ のみであり、点列のすべての項は $S$ に属するので、定義により任意の点列は空間内のすべての点に収束する。
ここで、 $A \subset S$ を「列に開」な部分集合とする。 $A \neq \varnothing$ と仮定し、元 $a \in A$ をとる。任意の点 $y \in S$ に対し、定数点列 $x_n = y \,(\forall n)$ を考える。前述の通りこの点列は $a \in A$ に収束する。 $A$ は列に開であるから、ある $N$ で $n \ge N \implies x_n = y \in A$ となる。したがって $y \in A$ であり、 $A = S$ である。
ゆえに $G(S)$ の列に開な集合は $\varnothing$ と $S$ のみであり、これは密着位相の開集合と完全に一致する。したがって $G(S)$ は列型空間である。
[2. 随伴性 $U \dashv G$ の証明]
任意の列型空間 $X \in \mathbf{Seq}$ と集合 $S \in \mathbf{Set}$ に対し、集合写像 $f: U(X) \to S$ をとる。
$G(S)$ の開集合は $\varnothing$ と $S$ のみであり、逆像は $f^{-1}(\varnothing) = \varnothing$ 、 $f^{-1}(S) = X$ であって、これらは常に $X$ の開集合である。したがって、任意の写像 $f$ は連続写像 $f: X \to G(S)$ となる。
これにより自然な全単射 $\text{Hom}_{\mathbf{Set}}(U(X), S) \cong \text{Hom}_{\mathbf{Seq}}(X, G(S))$ が確立され、 $U \dashv G$ である。
[3. 定理 5.1 の適用による結論]
以上により、忘却関手 $U: \mathbf{Seq} \to \mathbf{Set}$ は「忠実であり、単射を保つ左随伴関手」である。
集合の圏 $\mathbf{Set}$ において、2点集合 $\{0, 1\}$ は単射的余生成子である(例 1)。
したがって随伴移行定理(定理 5.1)により、右随伴関手による像 $G(\{0, 1\})$ (すなわち2点密着空間)は、列型空間の圏 $\mathbf{Seq}$ における単射的余生成子である。